○大津市の職員であった被上告人(第一審原告、控訴審被控訴人)が、在職中、自動車の飲酒運転をし、物損事故を起こしたことを理由として懲戒免職処分及び退職手当の不支給を内容とする退職手当支給制限処分を受けました。
○これに対し、市職員は、大津市の本件各処分は、裁量権を逸脱ないし濫用してされた違法なものであるとして、本件各処分の取消しを求め、第一審が、本件不支給処分は、本件退職手当条例の考慮要素の適切な考慮がされないままされたものとして、大津市の判断には、裁量権の逸脱ないし濫用があったと認めるのが相当であるとして、大津市長の市職員に対する退職手当支給制限処分を取り消し、大津市は控訴しましたが、大阪高裁は控訴を棄却しました。
○大津市が上告し、令和6年6月27日最高裁判決(判タ1529号○頁)は、本件非違行為は、職務上行われたものではないとしても、上告人の公務の遂行に相応の支障を及ぼすとともに、上告人の公務に対する住民の信頼を大きく損なうものであることが明らかであるとし、本件各事故につき被害弁償が行われていることや、被上告人が27年余りにわたり懲戒処分歴なく勤続し、上告人の施策に貢献してきたこと等をしんしゃくしても、本件全部支給制限処分に係る市長の判断が、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできないから、本件全部支給制限処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、退職手当支給制限処分に係る退職手当管理機関の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであるとして、原判決中、上告人敗訴部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消すとともに、当該部分に関する市職員の請求を棄却しました。
○飲酒運転に対する厳しい風潮が考慮されており、飲酒運転は厳に慎むべきことを肝に銘ずることを覚悟させる判決です。
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主 文
1 原判決中、上告人敗訴部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消す。
2 前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。
3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人○○○○ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は、普通地方公共団体である上告人の職員であった被上告人が、飲酒運転等を理由とする懲戒免職処分(以下「本件懲戒免職処分」という。)を受けたことに伴い、退職手当管理機関である大津市長(以下「市長」という。)から、大津市職員退職手当支給条例(昭和37年大津市条例第7号。令和元年大津市条例第25号による改正前のもの)11条1項1号の規定(以下「本件規定」という。)により一般の退職手当の全部を支給しないこととする処分(以下「本件全部支給制限処分」という。)を受けたため、上告人を相手に、上記各処分の取消しを求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(中略)
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1)本件規定は、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当について、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を退職手当管理機関の裁量に委ねているものと解され、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものというべきである(最高裁令和4年(行ヒ)第274号同5年6月27日第三小法廷判決・民集77巻5号1049頁参照)。
(2)前記事実関係等によれば、被上告人は、長時間にわたり相当量の飲酒をした直後、帰宅するために本件自動車を運転したものであって、2回の事故を起こしていることからも、上記の運転は、重大な危険を伴うものであったということができる。そして、被上告人は、本件自動車の運転を開始した直後に本件駐車場内で第1事故を起こしたにもかかわらず、何らの措置を講ずることもなく運転を続け、さらに、第2事故を起こしながら、そのまま本件自動車を運転して帰宅したというのであるから、本件非違行為の態様は悪質であって、物的損害が生ずるにとどまったことを考慮しても、非違の程度は重いといわざるを得ない。
また、被上告人は、本件非違行為の翌朝、臨場した警察官に対し、当初、第1事故の発生日時について虚偽の説明をしていたものであり、このような非違後の言動も、不誠実なものというべきである。
さらに、被上告人は、本件非違行為の当時、管理職である課長の職にあったものであり、本件非違行為は、職務上行われたものではないとしても、上告人の公務の遂行に相応の支障を及ぼすとともに、上告人の公務に対する住民の信頼を大きく損なうものであることが明らかである。
これらの事情に照らせば、本件各事故につき被害弁償が行われていることや、被上告人が27年余りにわたり懲戒処分歴なく勤続し、上告人の施策に貢献してきたこと等をしんしゃくしても、本件全部支給制限処分に係る市長の判断が、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。
(3)以上によれば、本件全部支給制限処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、退職手当支給制限処分に係る退職手当管理機関の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。
5 以上のとおり、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、上記部分に関する被上告人の請求は理由がないから、同部分につき第1審判決を取消し、同請求を棄却すべきである。
よって、裁判官岡正晶の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
以上:2,492文字
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