平成24年 6月 4日(月):初稿 |
○「信義に反する本訴提起」と断定しながら、、子の父に対する認知請求権は身分法上の権利で、これを放棄することはできず、放棄しても無効との昭和37年4月10日最高裁判決(民集16巻4号693頁、判タ139号65頁)の結論だけを理由に権利の濫用にならないとして控訴を棄却した昭52年10月31日名古屋高裁判決(判時881号118頁、判タ364号246頁)は、私としては腑に落ちないものです。しかし認知請求権放棄についてはこのような高裁判決があることを考慮して考えるべきでしょう。 ○相当多額の金銭的対価を受領することで、非嫡出子の母が、子の父に対する認知請求権を放棄する約束をすることは、世間では良くあります。この場合の放棄の効力について、通説は、不遇窮迫の立場にある非嫡出子の保護の見地から、これを無効と解しています(我妻・親族法242頁、青山・家族法論Ⅰ165頁、末川・民法132頁等)。これに対し、父から十分な金銭的対価を受けることによつて子の安全な成長が確保されるのであれば、父の婚姻家庭の保護ということも無視しえないので、事情いかんによつては放棄を有効と解してもよいとする考えもあります(中川・新訂親族法393頁、谷口・親族法32頁)。 ○近時の学説では、認知請求権の放棄は無効であるとの立場にたちながら、放棄契約後における認知請求権の行使が信義誠実の原則に反する場合には、権利の濫用になるとする考え方もあります(岩垂肇「身分権の放棄について」民商35巻二号162頁)。相当な対価を得て放棄した場合の認知請求権の行使が権利濫用になるかはどうかの判断基準は大変難しく、権利濫用として認知請求を棄却した判例は、私が所有する判例データベースでは見当たりません。昭52年10月31日名古屋高裁判決は、1500万円の対価支払済みでも権利の濫用にならないとしていますが、昭和55年9月29日東京高裁判決(判時981号80頁)の事案では、父が2000万円の対価支払を提供しても権利濫用にならないとしています。 ○このような判例傾向からすれば、認知請求権については以下の様に考えておいた方がよいでしょう。 ・血液検査・DNA検査で生物学的父子関係が認められる場合即ち父子関係がある場合、強制認知訴訟の場で、事実上、血液検査・DNA検査を拒むことは出来ず、結局、父子関係が認定される。 ・父が、子の母との間で、子の20歳までの養育料相当額を遙かに超える金額を支払い、認知請求権放棄の契約書を締結しても子の認知請求権を消滅させることは出来ない。 ・多額の金員を受領しその引換に認知請求権放棄の意思表示をした母が子の法定代理人として認知請求した場合、権利濫用として棄却されることは先ずない。 ○結局、生物学的父子関係がある場合、認知請求から逃れることは出来ないと覚えておいた方がよいでしょう。ですから自分の子に間違いないと思う場合は、無駄な抵抗は止めて、素直に認知し、養育料は支払能力に応じた金額を毎月支払う覚悟をした方が宜しいでしょう。但し、婚姻中に生まれた子でも、実は夫の子ではないと言う例が、結構あるとの情報もあります(^^)。従って婚姻外の子については、自分の子かどうか少しでも疑問がある場合は、血液検査・DNA検査で生物学的父子関係の有無を確認しておくべきです。 ○婚姻中に生まれ自分の子と確信し、成人まで育て上げた後になって、実は自分の子ではなかった事実が判明し、妻に不当利得返還・慰謝料請求等するも認められなかった例を別コンテンツで紹介します。 以上:1,456文字
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