平成27年 3月28日(土):初稿 |
○「自炊代行業者に自炊行為差止と損害賠償を認めた東京地裁判決全文紹介2」を続けます。 ******************************************** 第3 当裁判所の判断 1 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否(争点1)について (1) 後掲の証拠等によれば,以下の各事実がそれぞれ認められる。 ア 被告サンドリームの事業概要 被告サンドリームは,「ヒルズスキャン24」の名称でスキャン事業を行っている。 被告サンドリームのウェブサイトの記載(平成24年11月現在のもの)では,そのスキャン事業の概要は以下のとおりである。①利用者は,ウェブサイトにおいて,無料会員登録をした後,会員ページにログインして利用を申し込む。②対象の書籍は,最大A3サイズまでの書籍である(ただし,辞書,専門書等で極度に薄い紙質のものなどは除く。)。③サービス料金は,5営業日以内に納品される「通常納品」の場合は1冊240円,15営業日以内に納品される「15営業日納品」の場合は1冊180円,90営業日以内に納品される「のんびり納品」の場合は1冊100円,72時間以内に納品される「特急納品」の場合は1冊360円,24時間以内に納品される「超速納品」の場合は1冊480円であり(1冊の基準は500頁),カバースキャン等の有料オプションサービスも用意されている。④利用者は,指定された住所に書籍を送付するが,アマゾン等のオンライン書店から直送することもできる。⑤被告サンドリームは,書籍を裁断した上で,スキャナーで読み取ることにより,書籍を電子的方法により複製して,電子ファイルを作成する。電子ファイルのフォーマットは,PDF形式又はJPEG形式(有料オプション)がある。⑥完成した電子ファイルは,利用者がインターネット上のダウンロード用サイトからダウンロードするが,希望により電子ファイルを収録したDVD,USBメモリ等の媒体を配送する方法により納品される。 被告サンドリームは,スキャン作業の具体的な詳細については明らかにしていない。 なお,その後の被告サンドリームのウェブサイト(平成24年12月29日のもの)では,会員専用ログイン画面の最下部に,原告らの書籍のスキャンには対応していない旨が記載されている。(以上につき甲4,5,乙1,弁論の全趣旨) イ 被告ドライバレッジの事業概要 被告ドライバレッジは,「スキャポン」の名称でスキャン事業を行っている。 被告ドライバレッジのウェブサイトの記載(平成24年11月現在のもの)では,そのスキャン事業の概要は以下のとおりである。①利用者は,ウェブサイトにおいて,無料会員登録をした後,会員ページにログインして利用を申し込む。②対象の書籍は,A4サイズまでの書籍である(雑誌のように静電気が発生してスキャンに支障が出るもの,辞書やタウンページ等のように薄い頁の書籍等を除く。)。被告ドライバレッジのウェブサイトの「著作権について」と題するページには,スキャン対応不可の著作者一覧として,原告らを含む著作者120名の氏名が記載されている。③サービス料金は,「スキャン料金」が1冊200円,書籍到着後7~10日で納品を行う「お急ぎ便」(ブックカバースキャン,OCR処理がセット)が1冊380円であり(1冊は350頁までであり,以降200頁ごとに1冊分の追加料金が付加される。),他に「通販直送便」のプランがあるほか,ブックカバースキャン等の有料オプションサービスも用意されている。④利用者は,書籍を指定された住所に送付するが,アマゾン等のオンライン書店から直送することもできる。⑤被告ドライバレッジは,書籍を裁断した上で,スキャナーで読み取ることにより,書籍を電子的方法により複製して,電子ファイルを作成する。電子ファイルのフォーマットは,PDF形式(セルフサービスでJPEG形式に変換可能)である。⑥完成した電子ファイルは,利用者がインターネット上のダウンロード用サイトからダウンロードするが,希望により電子ファイルを収録したDVDを配送する方法により納品される。 上記⑤のスキャン作業については,被告ドライバレッジの事務所に設置されたスキャナーとコンピュータを接続したシステムにおいて,電動裁断機等で裁断した書籍をスキャンし,その結果をPDFファイルで保存し,保存されたPDFファイルはJPEG形式に変換される。上記システムでは,JPEG形式のファイルに対して,Hough変換処理(紙粉によるスジノイズ検知)や各頁の縦横サイズ計算(縦横のサイズが異なる頁を検知)を行う。上記システムによるデータ不良のチェックが完了すると,検品システムに目視検品が可能なリストが表示され,主に外注スタッフが検品システムにログインし,リストに表示されたファイルを目視で全頁検品する。この検品により,頁折れ,ゴミの付着の有無,紙粉スジの有無,傾斜,歪み,糊の跡,頁の順番,落丁,重複等がチェックされる。目視による検品の後,書籍をありのまま再現し,スキャンにより生じたノイズを取り除くために,事務所内のスタッフが画像ソフトによる修正作業を行う。修正作業後,PDFファイルのファイル名入力作業が行われる。(以上につき甲12~17,24,丙2) ウ 作家122名の質問に対する法人被告らの対応 (ア) 原告らを含む作家122名と出版社7社は,平成23年9月5日付け質問書(以下「本件質問書」という。)をもって,法人被告らを含むスキャン事業者約100社に対し,作家122名はスキャン事業における利用を許諾していないとした上で,作家122名の作品について,依頼があればスキャン事業を行う予定があるかなどの質問を行った。これに対し,被告ドライバレッジは,同月15日付け回答書をもって,作家122名の作品について,利用者の依頼があってもスキャン事業を行うことがない旨回答した。その後,被告ドライバレッジは,そのウェブサイトの「著作権について」と題するページに,スキャン対応不可の著作者一覧として原告らを含む著作者120名を掲載した。被告サンドリームは本件質問書に回答しなかった。(甲18,23,24,弁論の全趣旨) (イ) 原告らを含む作家122名と出版社7社は,被告サンドリームが本件質問書に回答しなかったため,平成23年10月17日付け通知書(以下「本件通知書」という。)をもって,本件質問書にも記載したとおり,作家122名が自らの作品をスキャンされることを許諾していないなどとして,被告サンドリームがスキャン事業において通知人作家の作品をスキャンすることは著作権(複製権)侵害に該当するとした上で,今後は,作家122名の作品について,依頼があってもスキャン事業を行なわないよう警告するとともに,本件質問書と同内容の質問書を添付して回答するよう求めた。しかし,被告サンドリームは,本件通知書に対しても回答しなかった。(甲25,弁論の全趣旨) (ウ) 原告ら代理人である前田哲男弁護士は,調査会社に対し,スキャン事業における利用を許諾していない作家の作品について,法人被告らがスキャンに応じるか否かの調査を依頼した。調査会社に依頼された協力者は,平成24年7月13日,被告サンドリームに対し,原告X6の作品である「課長島耕作」(全17巻)及び甲(本件質問書及び本件通知書の作家122名の一人である。)の作品である「沈黙の艦隊」(漫画文庫版全16巻)のスキャンを申し込んだ。被告サンドリームは,同年8月24日,協力者に対し,スキャンによって作成されたPDFファイルを収録したUSBメモリを納品するとともに,同月28日,裁断済みの書籍を返送した。また,協力者は,同年7月31日,被告ドライバレッジに対し,原告X6の作品である「部長島耕作」(全13巻)及び甲の作品である「沈黙の艦隊」(全32巻)のスキャンを申し込んだ。被告ドライバレッジは,協力者に対し,同年8月14日,スキャンによって作成されたPDFファイルを収録したDVDを納品するとともに,同年9月2日,裁断済みの書籍を返送した。(甲36) (2) 以上に基づいて,法人被告らが原告らの著作権を侵害するおそれがあるか(争点1-1)について検討する。 ア 複製の主体等について (ア) 著作権法2条1項15号は,「複製」について,「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義している。 この有形的再製を実現するために,複数の段階からなる一連の行為が行われる場合があり,そのような場合には,有形的結果の発生に関与した複数の者のうち,誰を複製の主体とみるかという問題が生じる。 この問題については,複製の実現における枢要な行為をした者は誰かという見地から検討するのが相当であり,枢要な行為及びその主体については,個々の事案において,複製の対象,方法,複製物への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して判断するのが相当である(最高裁平成21年(受)第788号同23年1月20日第一小法廷判決・民集65巻1号399頁参照)。 本件における複製は,上記(1)ア及びイで認定したとおり,①利用者が法人被告らに書籍の電子ファイル化を申し込む,②利用者は,法人被告らに書籍を送付する,③法人被告らは,書籍をスキャンしやすいように裁断する,④法人被告らは,裁断した書籍を法人被告らが管理するスキャナーで読み込み電子ファイル化する,⑤完成した電子ファイルを利用者がインターネットにより電子ファイルのままダウンロードするか又はDVD等の媒体に記録されたものとして受領するという一連の経過によって実現される。 この一連の経過において,複製の対象は利用者が保有する書籍であり,複製の方法は,書籍に印刷された文字,図画を法人被告らが管理するスキャナーで読み込んで電子ファイル化するというものである。電子ファイル化により有形的再製が完成するまでの利用者と法人被告らの関与の内容,程度等をみると,複製の対象となる書籍を法人被告らに送付するのは利用者であるが,その後の書籍の電子ファイル化という作業に関与しているのは専ら法人被告らであり,利用者は同作業には全く関与していない。 以上のとおり,本件における複製は,書籍を電子ファイル化するという点に特色があり,電子ファイル化の作業が複製における枢要な行為というべきであるところ,その枢要な行為をしているのは,法人被告らであって,利用者ではない。 したがって,法人被告らを複製の主体と認めるのが相当である。 (イ) この点について,被告サンドリームらは,著作権法30条1項の適用を主張する際において,被告サンドリームは,使用者のために,その者の指示に従い,補助者的な立場で電子データ化を行っているにすぎないとし,また,被告ドライバレッジらは,同項の「使用する者が複製する」の解釈について,「複製」に向けての因果の流れを開始し,支配している者が複製の主体と判断されるべきであるし,複製の自由が書籍の所有権に由来するものであることに照らしても,書籍の所有者が複製の主体であると判断すべきであると主張する。 著作権法30条1項は,複製の主体が利用者であるとして利用者が被告とされるとき又は事業者が間接侵害者若しくは教唆・幇助者として被告とされるときに,利用者側の抗弁として,その適用が問題となるものと解されるところ,本件においては,複製の主体は事業者であるとされているのであるから,同項の適用が問題となるものではない。もっとも,被告らの主張は,利用者を複製の主体とみるべき事情として主張しているものとも解されるので,この点について検討する。 確かに,法人被告らは,利用者からの発注を受けて書籍を電子ファイル化し,これを利用者に納品するのであるから,利用者が因果の流れを支配しているようにもみえる。 しかし,本件において,書籍を電子ファイル化するに当たっては,書籍を裁断し,裁断した頁をスキャナーで読み取り,電子ファイル化したデータを点検する等の作業が必要となるのであって,一般の書籍購読者が自ら,これらの設備を準備し,具体的な作業をすることは,設備の費用負担や労力・技術の面において困難を伴うものと考えられる。 このような電子ファイル化における作業の具体的内容をみるならば,抽象的には利用者が因果の流れを支配しているようにみえるとしても,有形的再製の中核をなす電子ファイル化の作業は法人被告らの管理下にあるとみられるのであって,複製における枢要な行為を法人被告らが行っているとみるのが相当である。 また,被告らは,法人被告らが補助者にすぎないと主張する。利用者がその手足として他の者を利用して複製を行う場合に,「その使用する者が複製する」と評価できる場合もあるであろうが,そのためには,具体的事情の下において,手足とされるものの行為が複製のための枢要な行為であって,その枢要な行為が利用者の管理下にあるとみられることが必要である。本件においては,上記のとおり,法人被告らは利用者の手足として利用者の管理下で複製しているとみることはできないのであるから,利用者が法人被告らを手足として自ら複製を行ったものと評価することはできない。 (ウ) さらに,被告ドライバレッジらは,「複製」といえるためには,オリジナル又は複製物に格納された情報を格納する媒体を有形的に再製することに加え,当該再製行為により複製物の数を増加させることが必要であり,言い換えれば,「有形的再製」に伴い,その対象であるオリジナル又は複製物が廃棄される場合には,当該再製行為により複製物の数が増加しないのであるから,当該「有形的再製」は「複製」には該当しない旨主張する。 しかし,著作権法21条は,「著作者は,その著作物を複製する権利を専有する。」と規定し,著作権者が著作物を複製する排他的な権利を有することを定めている。その趣旨は,複製(有形的再製)によって著作物の複製物が作成されると,これが反復して利用される可能性・蓋然性があるから,著作物の複製(有形的再製)それ自体を著作権者の排他的な権利としたものと解される。 そうすると,著作権法上の「複製」は,有形的再製それ自体をいうのであり,有形的再製後の著作物及び複製物の個数によって複製の有無が左右されるものではないから,被告ドライバレッジらの主張は採用できない。 イ 被告サンドリームが原告らの著作権を侵害するおそれについて 上記(1)アのとおり,被告サンドリームは,平成24年11月現在において,そのスキャン事業として,会員登録をした利用者から利用申込みがあると,有償で,書籍をスキャナーで読み取ることにより,電子的方法により複製して,電子ファイルを作成している。 そして,上記(1)ウのとおり,原告らを含む作家122名及び出版社7社は,被告サンドリームに対し,本件質問書において,作家122名は,スキャン事業における利用を許諾していないとした上で,作家122名の作品について,依頼があればスキャン事業を行う予定があるかなどの質問を行ったが,被告サンドリームは,本件質問書に対して回答しなかった。また,原告らを含む作家122名及び出版社7名は,被告サンドリームに対し,本件通知書において,今後は,作家122名の作品について,依頼があってもスキャン事業を行なわないよう警告するなどしたが,被告サンドリームは,本件通知書に対しても回答しなかった。その後の調査会社の調査によると,被告サンドリームは,原告X6及び甲の作品について,スキャンを依頼され,スキャンによって作成されたPDFファイルを収録したUSBメモリを納品した。 以上に照らすと,被告サンドリームのウェブサイト(平成24年12月29日のもの)では,会員専用ログイン画面の最下部に,原告らの書籍のスキャンには対応していない旨が記載されている(上記(1)ア)としても,被告サンドリームが原告らの著作権を侵害するおそれがあると認めるのが相当である。また,被告サンドリームに対する差止めの必要性を否定する事情も見当たらない。 以上:6,636文字
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