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遺留分減殺請求で死亡保険金の特別受益持ち戻しを認めた地裁判決紹介

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令和 1年 7月13日(土):初稿
○「生命保険金持ち戻しは一律否認せずケースバイケースで柔軟に考えるべき」の続きです。遺産分割ではなく遺留分減殺請求においても生命保険金は遺産に属さない固有財産として特別受益とされないのが原則ですが、遺留分減殺請求において死亡保険金が遺留分の対象となる財産とした平成23年8月19日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)関連部分を紹介します。

○被相続人の子である原告が、被相続人の妻である被告に対し、遺留分減殺請求等をした事案において、保険契約に基づき保険受取人とされた相続人が取得する死亡保険金は、原則として、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが、保険受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が本条の趣旨に照らして到底是認することができないほどの著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により特別受益に準じて持ち戻しの対象となるしました。

○その上で、本件においては、被相続人が生命保険会社から借り入れをしており、本件死亡保険金から貸付額を控除される関係にあることから、本件死亡保険金には、特段の事情があり、持ち戻しの対象となるとしました。

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主  文
1 被告は原告X4に対し、96万9136円及びこれに対する平成23年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は原告X4に対し、305万円およびこれに対する平成21年1月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は原告X4に対し、305万円及びこのうち18万3000円に対する平成10年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成11年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成12年1月1日から、このうち79万2000円に対する平成13年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成14年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成15年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成16年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成17年1月1日から、このうち79万2000円に対する平成18年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成19年1月1日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告X4のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを6分し、その4を原告X4の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は原告X4に対し、942万6664円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は原告X4に対し、105万円を引き渡せ。
3 被告は原告X4に対し、305万円およびこれに対する平成21年1月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は原告X4に対し、305万円及びこのうち18万3000円に対する平成10年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成11年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成12年1月1日から、このうち79万2000円に対する平成13年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成14年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成15年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成16年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成17年1月1日から、このうち79万2000円に対する平成18年1月1日から、このうち18万3000円に対する平成19年1月1日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は原告X4に対し、18万5400円を支払え。
6 被告は原告X4に対し、8万7600円を支払え。
7 被告は原告X4に対し、被告が四谷税務署に提出した平成3年10月22日付け相続税の更正の請求書について、四谷税務署の受領印が押捺された控を開示せよ。

第2 当事者の主張
1 原告X4の請求原因

(1) 相続の開始
 原告X4、訴訟被承継人X2(以下「X2」という。)、同X3(以下「X3」という。)は、亡A(昭和61年7月9日死亡)の子であり、訴訟被承継人X1(以下「X1」という。)(原告X4、X2、X3、X1四名を、以下「原告ら」という。)は、亡Aの子の亡B(平成6年6月12日死亡。以下「亡B」という。)の妻である。
 被告は亡Aの妻である。
(2) 相続財産
 亡Aの死により開始した相続における相続財産は、別紙「遺留分侵害額等計算書」(以下、単に「計算書」という。)記載のとおりであるところ、被告は、亡Aの公正証書遺言により、別紙計算書記載(1)の財産を相続した。また、同公正証書遺言により、原告X4は同計算書(2)の、亡Aの子であるC(以下「C」という。)は同計算書(3)の、亡Bは同計算書(4)の、X2は同計算書(5)の、X3は同計算書(6)の財産を、それぞれ相続した。

(3) 遺留分減殺請求
ア 遺留分算定の基礎となる積極財産
 上記相続財産のほか、遺留分算定の基礎となる財産は、別紙計算書記載の特別受益欄記載の各財産(生命保険金受領権、死亡退職金受給権、被告が亡Aから生前贈与を受けたメリーチョコレートの株式及び現金)である。
 なお、被告は、別紙計算書のとおり亡Aの生命保険金の支払いを受けたが、生命保険金は、原告らと被告との間に相続財産について生じている不公平は著しいものがあるので、特別受益に準じて持ち戻しの対象となると解すべきである。

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 遺留分減殺請求について

 相続人については当事者間で争いはない。
 原告は、生命保険金受領権が特別受益であると主張する。

 この点、保険契約に基づき保険受取人とされた相続人が取得する死亡保険金又は死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらない。もっとも、保険受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が本条の趣旨に照らし到底是認することができないほどの著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、本条の類推適用により、死亡保険金請求権は特別受益に準じて持ち戻しの対象となるものというべきである(最決平成16年10月29日民集58巻7号1979頁)。本件においては、第一生命保険から497万0067円の借り入れをしており、生命保険金の死亡保険金から貸付額を控除されることを考えると、特段の事情があり、持ち戻しの対象となるものというべきである。

 以上から、別紙遺留分侵害額等計算書記載の財産が遺留分の対象となる財産であり、その評価額は、同計算書の訴え変更申立書2記載のとおりの評価額となり(鑑定の結果)、原告らの遺留分額は3604万9572円である。
 そして、原告らの遺留分侵害額は、同計算書のとおり、原告X4が1457万8972円、亡Bが1473万3972円、原告X2が2174万3972円である。

 なお、被告は、原告らと被告は、原告らによる遺留分減殺の意思表示より後に行われた遺産分割調停申立事件において、原告らは現に被相続人の遺産を取得できたのであるから、かかる遺産を当初から原告らが取得したものとして遺留分侵害額を計算し直し、原告らは、信義則上、かかる金額についてしか遺留分を侵害されたと主張できないと解すべきであると主張する。

 しかし、遺留分減殺の効果は、遺留分減殺の意思表示をした時点で物権的効果を生ずるものであり、遺留分算定の基礎となる相続財産は相続の開始時点で判断すべきものであるから(民法1029条1項)、被告の主張は採用できない。
以上:3,194文字

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