平成20年 3月25日(火):初稿 |
○「相続事件における一部相続人からの依頼と遺言執行者就任2」記載の通り、私は、10数年前に膨大な不動産を所有する方から財産の殆どを同居する奥様と家督の長男に相続させ、数十年前に離婚以来音信不通の先妻の子供には遺留分相当額ギリギリの現金を遺贈する内容の遺言書作成を依頼され、私自身が遺言執行者になり、実質は、この先妻の子の代理人と遺産分割交渉をしたことがあります。 ○その当時はこの処理に全く問題意識がありませんでしたが、実は、いったん遺言執行者に就任した場合、その後に特定の相続人の代理人となることは、以下の旧弁護士倫理26条及び現行弁護士職務基本規程27、28条に違反するもので問題でした。 (旧弁護士倫理) 第26条(職務を行い得ない事件) 弁護士は、左(下)に掲げる事件については、職務を行ってはならない。ただし、第三号及び第四号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者の同意がある場合は、この限りでない。 一 事件の協議を受け、その程度及び方法が信頼関係に基づくときは、その協議をした者を相手方とするその事件 二 受任している事件と利益相反する事件 三 受任している事件の依頼者を相手方とする他の事件 四 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件 五 公務員若しくは法令により公務に従事する者又は仲裁人として職務上取り扱った事件 (現行弁護士職務基本規程) 第28条(同前) 弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第一号及び第四号に掲げる事件についてその依頼者が同意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び相手方が同意した場合並びに第三号に掲げる事件についてその依頼者及び他の依頼者のいずれもが同意した場合は、この限りでない。 一 相手方が配偶者、直系血族、兄弟姉妹又は同居の親族である事件 二 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供を約している者を相手方とする事件 三 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件 四 依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件 ○遺言執行者は、民法第1015条(遺言執行者の地位)で「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」と規定されており、形式的には相続人全員の代理人となります。従って、いったん遺言執行者になると言うことは、先の私の例では相続人の1人である先妻の子の代理人にもなったということです。 ○遺言執行職務としては、先ず不動産相続登記は公正証書遺言或いは家庭裁判所検認済み自筆証書遺言書があれば受贈者本人だけで可能であり遺言執行は不要で結局預金の払戻業務だけでした。先の件では遺言書では登記できない遺言書作成後分筆された土地、建物の相続登記は遺産分割協議が必要となりました。 ○いったん遺言執行者に就任し、相続人全員の代理人となり、形式的には先妻の子の代理人となった場合、形式的には、遺言執行者として職務を受任している事件の依頼者には先妻の子も該当し、正妻と長男から先妻の子を相手とする他の事件の依頼を受けることは旧弁護士倫理第26条、現行弁護士職務基本規程27,28条に違反することになります。 以上:1,322文字
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