平成29年 2月 4日(土):初稿 |
○ここ2,3年殆ど債務整理関連事件がなくなりました。自己破産手続開始決定申立事件も、現在、係属中の事件は僅かに1件だけです。5,6年前までは自治体等主催の法律相談には必ず債務整理関連事件が含まれていました。しかし、ここ数年このような法律相談でも滅多にありません。これは私個人の感想ですが、現時点でも東京等大手法律事務所は債務整理関連事件取扱の宣伝・広告HPやチラシ配布を派手に行っています。コストに見合うのだろうかと思いますが、おそらく、コストに見合うからやっているのでしょう。 ○すると私個人は殆どなくなりましたが、債務整理関連事件、破産申立事件等はまだまだ世間には残っているのでしょう。そこで破産事件に関して注意すべき平成28年4月28日最高裁判決(判タ1426号32頁、判時2313号25頁)を紹介します。破産事件では、依頼者に破産宣告決定時の財産は原則として全て裁判所に差し出さなければなりませんが、破産宣告決定後に取得した財産は、自由財産と言って裁判所に差し出す必要はありませんと説明します。破産法の規定は次の通りです。 破産法第34条(破産財団の範囲) 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。 ○そこで平成24年3月に破産決定を受けた後の同年5月に合計2400万円の生命保険金を受領したお客様が内800万円を費消しても構わないとのアドバイスをした弁護士に対し、注意義務違反の不法行為を理由に640万円の損害賠償が認めた下級審判決の上告審で弁護士の賠償責任が維持されました。 ○私も、つい、うっかり、この生命保険金は破産決定後に取得したのだから自由財産であり、破産手続には無関係なので自由に使っていいですよとアドバイスしそうです。しかし、破産法第34条2項「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。」との規定があります。これは破産決定後に取得しても、その原因すなわち生命保険契約が破産決定前に締結されていた場合は、破産財団に属するとの規定です。 ○この最高裁事案での生命保険金はその原因となる生命保険契約が破産決定前に締結されていたので、破産法第34条2項の破産財団に属する「将来の請求権」とされました。このような生命保険金について僅かに「将来の請求権」は属しないとの学説もあるようですが、通説・判例は属するとの立場でした。 ○それでは破産決定前に購入していた宝くじが破産決定後に当たって数千万円の請求権を取得した場合はどうなるかとの問題もあります。この生命保険金内金800万円について、つい、うっかりアドバイスをした弁護士に640万円の損害賠償義務が認められました。この問題は、慎重に考えた方が良いでしょう。 ******************************************** 主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人らの負担とする。 理 由 上告代理人滝沢繁夫ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1) 上告人Y1及びY2は,平成24年3月7日,東京地方裁判所に破産手続開始の申立てをした。同裁判所は,同月14日,両名についてそれぞれ破産手続開始の決定(以下「本件各開始決定」という。)をし,被上告人らを破産管財人に選任した。 (2) 上告人Y1及びY2の長男であるAは,平成16年に全国労働者共済生活協同組合連合会との間で,被共済者をA,死亡共済金を400万円とする生命共済契約(以下「本件生命共済契約」という。)を,また,平成23年に日本生命保険相互会社との間で,被保険者をA,死亡保険金を2000万円とする生命保険契約(以下「本件生命保険契約」という。)をそれぞれ締結していたが,平成24年4月25日に死亡した。本件生命共済契約の定めによれば,上記死亡共済金の受取人は上告人Y1及びY2となり,本件生命保険契約では,上記死亡保険金の受取人は上告人Y1に指定されていた。 (3) 上告人Y1は,平成24年5月上旬,上記死亡共済金及び上記死亡保険金の各請求手続をして,同月下旬に合計2400万円を受け取り,このうち1000万円(以下「本件金員」という。)を費消し,同年9月,残金1400万円を被上告人X1(以下「被上告人X1」という。)の預り金口座に振込送金した。なお,本件金員のうち800万円は,同年6月から上告人Y1の代理人となった弁護士である上告人Y3の助言に基づいて費消されたものであった。 2 本件本訴は,被上告人らが,上記死亡共済金及び上記死亡保険金の各請求権(以下「本件保険金等請求権」という。)が上告人Y1又はY2の各破産財団(以下「本件各破産財団」という。)に属するにもかかわらず,上告人Y1が本件金員を費消したことは,上告人Y1において本件金員を法律上の原因なくして利得するものであり,また,上告人Y3には上告人Y1が本件金員を費消したことにつき弁護士としての注意義務違反があると主張して,上告人Y1に対しては不当利得返還請求権に基づき,上告人Y3に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき,被上告人X1において800万円及び遅延損害金等の連帯支払を,また,被上告人X2において200万円及び遅延損害金等の連帯支払を求めるものであり,本件反訴は,上告人Y1が,本件保険金等請求権が上告人Y1の破産財団に属しないにもかかわらず,被上告人X1が法律上の原因なくその一部である1400万円を利得していると主張して,被上告人X1に対し,不当利得返還請求権に基づき,1400万円及び遅延損害金の支払を求めるものである。 3 原審は,本件保険金等請求権は,破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するものとして,本件各破産財団に属することになるから,上告人Y1が本件金員を費消したことは,上告人Y1において本件金員を法律上の原因なくして利得するものであり,また,上告人Y1が本件金員のうち800万円を費消したことについて,上告人Y3に弁護士としての注意義務違反が認められるとして,被上告人らの本訴請求のうち上告人Y1に対する請求を認容するとともに上告人Y3に対する請求を一部認容し,上告人Y1の反訴請求を棄却すべきものとした。 4 所論は,第三者のためにする生命保険契約(生命共済契約を含む。以下同じ。)において,死亡保険金受取人の請求権は,被保険者が死亡したときに初めて生ずるものであり,被保険者が死亡する前に上記死亡保険金受取人が有しているのは,権利ではなく期待的利益にすぎないにもかかわらず,本件保険金等請求権が本件各破産財団に属するとした原審の認定判断に法令の解釈適用の誤りがあるというものである。 5 第三者のためにする生命保険契約の死亡保険金受取人は,当該契約の成立により,当該契約で定める期間内に被保険者が死亡することを停止条件とする死亡保険金請求権を取得するものと解されるところ(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照),この請求権は,被保険者の死亡前であっても,上記死亡保険金受取人において処分したり,その一般債権者において差押えをしたりすることが可能であると解され,一定の財産的価値を有することは否定できないものである。したがって,破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権は,破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するものとして,上記死亡保険金受取人の破産財団に属すると解するのが相当である。 前記事実関係によれば,本件生命共済契約及び本件生命保険契約はいずれも本件各開始決定前に成立し,本件生命共済契約に係る死亡共済金受取人は上告人Y1及びY2であり,本件生命保険契約に係る死亡保険金受取人は上告人Y1であったから,本件保険金等請求権のうち死亡共済金に係るものは本件各破産財団に各2分の1の割合で属し,本件保険金等請求権のうち死亡保険金に係るものは上告人Y1の破産財団に属するといえる。 6 以上によれば,所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができる。所論引用の判例(最高裁平成3年(オ)第625号同7年4月27日第一小法廷判決・生命保険判例集8巻123頁)は,本件に適切でない。論旨は採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 櫻井龍子 裁判官 山浦善樹 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池裕) 以上:3,640文字
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