平成21年 1月 6日(火):初稿 |
○「事業任意整理における先取特権者者保護3」の話を続けます。 私は事業任意債務整理事件において動産売買先取特権者の保護を重視していますが、その理由の一つは債権者が債務者倒産後販売代金債権未回収の自社商品が他に処分されることに大きなこだわりを持っており、このこだわりを無視するとその債権者は不信感を抱き、その後の債務整理が円滑に進まなくなることがあります。 ○しかし繰り返しますが、動産売買先取特権を保護するのはあくまで倒産時の在庫品に限ります。たとえ倒産直前に売却した場合であってもその売却によってその商品は「債務者の特定動産」ではなくなり、以下の動産先取特権は消滅します。 第311条(動産の先取特権) 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。 (略)5.動産の売買 ○動産売買先取特権の内容は 第321条(動産売買の先取特権) 動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する。 と規定されていますが、この動産の代価及びその利息とはその債権者が倒産債務者に売却した動産の代価及び利息のことです。この動産の代価及び利息が動産そのものについて先取特権を有するのであり、倒産債務者が他に転売した代価と利息に存在するものではありません。「倒産直前に売却した売却代金について、自社の商品を売却して生じた代金債権なので自社に優先権があると主張する債権者も時々出てきます。」。確かに自社の商品を他に転売した代金については自社に優先権を認めて良いではないかと言う心情は理解出来ますが、以上の通りこの主張は法律上は誤りです。 ○この転売債権に優先権を主張する方法があり、以下の通り「物上代位」として規定されています。 第304条(物上代位) 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。 これはその動産を倒産債務者が他に売却してその売却代金債権が生じた場合、その代金債権に先取特権即ち優先権を認める規定ですが、その要件として、その(倒産債務者への)払渡しの前に差押えが必要で、この「払渡し前の差押」がない限り物上代位に基づく先取特権は発生しません。 ○従って例えばA社が倒産会社でB社が商品甲の売買代金債権金10万円を有する債権者で、A社が商品甲をC社に12万円で転売し、A社のC社に対する金12万円の売買代金債権についてB社が優先権を主張してきた場合、優先権即ち先取特権が発生するには「払渡し前の差押」が必要であり、貴社が「差押」をしていない限り優先債権者とは認められませんとお答えします。 ○これによって「差押」手続を取る債権者は先ずありません。A社がこの債権を回収してしまえば、「払渡し前」の要件が失われ先取特権発生の余地が無くなるからです。事業倒産整理の経験では、在庫品として存在するものは優先権を主張できるが,既に売られていたらお終いと言う感覚は債権者自身持っているように見られます。 以上:1,289文字
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