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事故後発症切迫性尿失禁等と事故との因果関係を認めた高裁判決紹介

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令和 4年 4月20日(水):初稿
○被控訴人会社の従業員である被控訴人Yが、自動車を運転し、控訴人Xが運転する自転車と衝突した交通事故で、控訴人Xが事故後発生した切迫性尿失禁等の症状について自賠責後遺障害第7級に該当するとして、被控訴人Yに対し民法709条に基づき、被控訴人会社に対し民法715条1項又は自動車損害賠償保障法3条に基づき約8933万円損害賠償を求めました。

○原審平成31年3月26日札幌地裁判決(自保ジャーナル2093号13頁)は、控訴人Xの請求のうち約224万円しか認めず、これを不服とする控訴人Xが控訴しました。これに対し、控訴人Xの症状について、典型的な神経因性膀胱とはいえず、器質的な病変、ひいては医学的に厳密な因果関係は特定できないものの、本件事故による外傷に起因して生じた高度の蓋然性があると認めるのが相当であるなどとして、原判決を変更して、約1573万円の支払を命じた令和3年3月2日札幌高裁判決(自保ジャーナル2093号1頁、判時2509号31頁)関連部分を紹介します。

○高裁判決は、尿失禁等の傷病は,本件事故による外傷によって下部尿路を支配する神経損傷や骨盤内の膀胱尿道支持組織の損傷等による異常がもたらされ,器質的な病変は特定できないものの,これらに起因して生じた高度の蓋然性があると認めるのが相当であり,本件事故との相当因果関係を肯定することができるとしました。極めて妥当な判断と思われます。

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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人らは,控訴人Xに対し,連帯して1,573万9,156円及びうち1,430万9,156円に対する平成22年12月6日から,うち143万円に対する平成26年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人Xのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その4を控訴人Xの負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。
5 この判決は,仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人らは,控訴人Xに対し,連帯して8,933万1,109円及びうち8,511万1,858円に対する平成26年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要(以下,略語等は原判決の例による。原判決を引用する場合,「原告」を「控訴人X」と,「被告」を「被控訴人」と読み替える。)
1(1)被控訴人Yは,被控訴人会社の従業員である。被控訴人Yは,自動車を運転し,控訴人Xが運転する自転車と衝突した(本件事故)。控訴人Xは,本件事故により負傷するなどして損害を被ったと主張する。本件は,控訴人Xが,被控訴人Yに対しては民法709条に基づき,被控訴人会社に対しては民法715条1項又は自動車損害賠償保障法3条に基づき,次の連帯支払を求める事案である。

ア 損害賠償金8,511万1,858円(〔1〕弁護士費用770万円,〔2〕これを除く損害7,741万1,858円)
イ 本件事故日である平成22年12月6日から平成26年4月14日までの上記ア〔2〕に係る確定遅延損害金(未払分)421万9,251円
ウ 上記アに対する平成26年4月15日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金

(2)原審は,被控訴人らが賠償すべき損害を224万8,387円(〔1〕弁護士費用20万円,〔2〕これを除く損害204万8,387円)と認定し,被控訴人らに対し,連帯して224万8,387円及びうち204万8,387円に対する平成22年12月6日から,うち20万円に対する平成26年4月15日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を命じる旨の判決をした。

(3)控訴人Xは,原判決を不服として本件各控訴を提起した。

2 前提事実,争点及び当事者の主張は,後記3のとおり当審における当事者の主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」の2~4のとおりであるから,これを引用する。

         (中略)


3 当審における当事者の主張

         (中略)

第三 当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人Xの請求について,被控訴人らに対して連帯して1,573万9,156円及びうち1,430万9,156円に対する平成22年12月6日から,うち143万円に対する平成26年4月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があると判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記2及び3のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)

         (中略)

(4)同18頁11行目冒頭~19頁15行目末尾を次のとおり改める。
「ア 控訴人Xは,本件事故後,平成23年1月27日から泌尿器科を受診し,担当医は,控訴人Xの症状について,基本的に切迫性尿失禁であり,また,腹圧性尿失禁も見られると診断している(前記認定事実(5)ウ)。担当医は,この診断に基づき,薬物治療を行っており,控訴人Xの症状は,薬(スピロペント〔腹圧性尿失禁に適応〕・ベタニス〔尿意切迫感,頻尿及び切迫性尿失禁に適応〕)の服用を中止すると症状が悪化し,再開すると改善することを繰り返した経緯をたどった(前記認定事実(5)イ)。このことに照らすと,控訴人Xは,本件事故後,上記診断どおりの傷病を負ったと認めるのが相当である。

イ 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,〔1〕控訴人Xは,本件事故の際,尻もちをつく形で転倒し,q2病院の医師によって尾骨骨折等の診断を受け,その後も臀部に痛みを感じていたこと,〔2〕控訴人Xは,平成23年1月7日,自身の体調等を記録していたメモに,本件事故後,尿が近い感じがする旨を記載し,また,同月14日,同メモに,排尿を我慢できないことに気付いた旨を記載したこと,〔3〕控訴人Xの尿漏れは,その後も継続し,令和元年8月6日~同年10月9日には,1日当たり約9ミリリットルの尿漏れがあり,これに対応するために,1日当たり約3枚の尿漏れパッドを使用したことが認められる。

ウ 上記事実〔1〕によれば,控訴人Xは,本件事故の際に尾骨付近に衝撃を受けたことが認められる。その程度は,少なくとも骨折を疑うに足りるに至っていた。
 そうであれば,尾骨への衝撃が仙骨に伝わり,仙骨を通る骨盤神経,下腹神経,陰部神経(いずれも下部尿路を支配する神経)を損傷した可能性がある。また,上記衝撃は,骨盤内の膀胱尿道支持組織に損傷等の異常を与える可能性がある。


 他方,尿失禁は,特に女性の場合,加齢によって生じることがあるが,控訴人X(昭和49年○月○○日生)は,本件事故当時,36歳であり,加齢を原因として発症したとは考え難い。控訴人Xに本件事故前から尿失禁の症状があったことをうかがわせる事情は証拠上,認められない。上記事実〔2〕のとおり,控訴人Xは,本件事故から1ヶ月経過した頃に本件事故以降排尿に違和感があったことを自覚している。尿失禁の症状は,本件事故の前後を通じ,徐々に出現したのではなく,むしろ,本件事故を契機として比較的急に発症したと認めるのが相当であり,このことからも加齢を原因とはし難い。
 また,控訴人Xには出産歴がなく,出産に伴う陰部神経損傷も考え難い。

 さらに,泌尿器科担当医は,平成23年1月27日の初診時,超音波検査その他の検査を実施し,その結果,明らかな膀胱の収縮はないが膀胱容量は低下していることが認められている(前記認定事実(5)ア)。そして,上記アのとおり,切迫性尿失禁や腹圧性尿失禁に適応のある薬剤を用いた治療を行い,控訴人Xの症状はこれに対応した反応をしている。控訴人Xの症状が心因反応だとすると,これらの経緯とはそぐわない。控訴人Xの尿失禁が本件事故による心因反応によるものであることを認めるに足りる証拠はない。

 以上を総合すると,上記傷病は,本件事故による外傷によって下部尿路を支配する神経損傷や骨盤内の膀胱尿道支持組織の損傷等による異常がもたらされ,器質的な病変は特定できないものの,これらに起因して生じた高度の蓋然性があると認めるのが相当であり,本件事故との相当因果関係を肯定することができる。

エ 控訴人Xの切迫性尿失禁・腹圧性尿失禁は,上記事実〔3〕の尿漏れの程度等を考慮すると,「常時パッド等の装着は要しないが,下着が少し濡れるもの」に相当するといえる。これは,別表第二11級10号の「胸腹部臓器の機能に障害を残し,労務の遂行に相当な程度の支障があるもの」に相当する後遺障害に当たると認められる。

 そして,q5病院泌尿器科の担当医が平成26年7月7日に定期受診を終了したことをもって症状固定と判断していることによれば,同日を症状固定日と認めるのが相当である


オ 控訴人Xは,尿漏れの程度について,終日パッド等を装着し,かつ,パッドをしばしば交換しなければならない状態であるとして,別表第二7級5号に相当すると主張する。
 しかし,控訴人Xの担当医は,パッドをしばしば交換する必要があるかについては不明であり,問診から1日数回交換していると推測したとしている。また,控訴人Xによる尿漏れの記録をみると,その程度が終日パッド等を装着し,かつ,パッドをしばしば交換しなければならないとまではいえない。控訴人Xの上記主張は,これを認めるに足りる証拠はなく,採用できない。
以上:4,001文字

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