平成26年12月26日(金):初稿 |
○「統合失調症既往症患者頚随損傷被害交通事故損害賠償請求事件顛末4」を続けます。 16歳で統合失調症を発症して、以来、無職無収入であったAさんが40歳で交通事故に遭い、頚随損傷で別表第一第1級後遺障害となるも、事故形態がAさんの赤信号無視自転車走行横断のためAさんに85%の過失があるとして、加害者側保険会社は、自賠責保険金を超えた損害は発生しないと断定し、一切の交渉を拒否していた事案です。 ○自賠責保険金請求手続から依頼された私は、事故現場の交差点を訪れ、繰り返し道路状況をビデオ撮影して、その映像を0.5間隔の画面キャプチャーで連続写真にし、仮にAさんが赤信号横断したとしても、どう見ても加害者側過失が50%以上であることを論証した上申書を作成・提出し、最終的に自賠責保険金は、過失割合減額がなく、統合失調症による既往症も12級に限定され、4000万円(1級保険金額)-224万円(既往等級12級保険金額)=3776万円の支払を受けました。 ○その後、自賠責保険金では不足する損害について加害者側保険会社に訴えを提起することになりましたが、問題は請求金額でした。先ず過失割合減額ですが、大変な重傷事案にも拘わらず加害者の刑事責任は略式起訴で罰金僅か20万円でした。刑事記録を取り寄せ精査するもAさんが赤信号横断をしたとの証拠は加害者の供述しかありません。通常、これほどの重傷事案で被害者赤信号横断との重要事情は目撃証言での補強証拠があります。ところが目撃証言も全くありません。 ○訴えを提起するに当たっても、再度、事故と同じ土曜日の事故と同じ時刻に事故現場交差点を訪れ、自動車走行状況を繰り返し確認し再度ビデオに収め、加害者側信号と被害者Aさんの横断歩道信号が共に青信号の時間が20秒程あり、この20秒間加害者が右折出来る可能性がどの程度あるか調査しました。右折するためには対向車が途切れることが条件です。しかし、土曜日早朝とは言え、通行量が結構多く対向車が連続してあり、殆ど右折可の矢印信号が出るまで右折出来ません。 ○右折可矢印信号が出る数秒前に横断歩道信号は赤に変わっていますので、車両通行量が極めて多いこの交差点では、事実上、横断歩道青信号中に右折進行できる可能性は極めて少ないことが判明しました。そのため検察も加害者証言だけで、Aさんが赤信号で渡ったと認定して起訴したと思われます。しかし、何度も繰り返しビデオ撮影すると僅かに横断歩道青信号中に対向車両が途切れ、車両が右折進行出来る場合もありました。 ○そこで当時当事務所に入ったばかりの新人弁護士が、繰り返し、果敢に青信号中に自転車で進行し、対向車が途切れ右折進行し、青信号進行者待ちのため信号手前で一時停止する状況の撮影を試みました。殆どの場合、横断歩道青信号中は、対向車両があり、車両が右折進行することはありませんでしたが、1回だけ横断歩道青信号で横断中、右折進行車両が横断歩道手前で一時停止する状況の撮影に成功しました。 ○被害者Aさんは事故時の状況は全く記憶が消失しています。しかし、Aさんは、この交差点を毎朝の散歩コースで、毎朝、自転車で横断しているが、自分は赤信号を無視して横断歩道を渡ることなどないと断言します。また、前述の通り、刑事記録にはAさんが赤信号で横断した事実について、加害者証言以外に目撃証言等の補強証拠が全くありません。そこで訴え提起に当たってはAさんは青信号で渡った、即ち、過失割合ゼロと構成しました。 ○さらに統合失調症による既往症減額についても当時回復傾向にあったとして、労働能力は100%あったことにして、健常者と同じ条件で損害賠償額を計算しました。同種事案判例をつぶさに調査して、認められる可能性のある損害を全て計上すると自賠責保険金3776万円を控除してもなお3億5000万円に達しました。私としては貼付印紙代の関係で内金2億円程度の請求に留めようと思いましたが、Aさん側の印紙代は自賠責保険金から支払うので出来るだけ多く請求して頂きたいとのご要望で3億5000万円の訴え提起となりました。 以上:1,683文字
|