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平成22年 9月25日(土):初稿 |
○交通事故損害賠償請求権は交通事故事故の日に発生し、何らの催告を要することなく、遅滞に陥り、民法所定の年5%の割合による遅延損害金が発生するとの法理(最高裁昭和37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)は争いがありません。問題は自賠責保険金・各種社会保険給付等既払金の充当方法です。 ○これまで当HPに紹介してきたこの問題についての典型判例の結論と理由を整理します。 ・平成15年7月17日水戸地裁判決(交民37巻6号1493頁) 自賠責保険金・労災保険法遺族補償金既払金・厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金既払金について、当然に、先ず遅延損害金に充当し、その余を元本分に充当。 その理由についての記述はありませんが、おそらく前記昭和37年9月4日最高裁判決論理を当然の前提としていたものと思われます。 ・平成15年12月17日東京高裁判決(自動車保険ジャーナル) 自賠責保険金・労災保険法遺族補償金既払金・厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金既払金について、いずれも事故日に元本分から充当し、弁済充当に関する民法の規定を適用又は類推適用する余地はないとしています。 その理由は、自賠責保険の損害賠償金や厚生年金保険法の遺族給付が損害を填補するものとされるのは、それらの支払や給付が、制度の趣旨からして、不法行為によって発生した損害の元本分と同質性を有するものであるため、両者について損益相殺的な処理をすることが相当としています。 ・平成16年12月20日最高裁判決(自動車保険ジャーナル) 自賠責保険金については、上記交通事故日からの遅延損害金発生の法理に従って民法491条1項「債務者が1個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。」を適用し、先ず遅延損害金に充当すべししています。 しかし、年金等各種社会保険給付金については、不法行為によって被害者が死亡し、その損害賠償請求権を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合には、損害と利益との間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を当該相続人が加害者に対して賠償を求め得る損害の額から控除することによって、損益相殺的な調整を図ることが必要であるとの論理で、元本分から控除すべきとしています。 ・平成22年9月13日最高裁判決() 各種社会保険給付について、本件各保険給付及び本件各年金給付は,その制度の予定するところに従って,てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給され,又は支給されることが確定したものということができるから,そのてん補の対象となる損害は本件事故の日にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をするのが相当としています。 ここでのポイントは、各種社会保険給付は、てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されるところにあると思われます。この論理で言うと、自賠責保険金は,一般に、損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されませんので、事故日に填補されたとは評価出来ず、自賠責保険金に限らず損害が現実化する毎に定期的に支給されない弁済金は、民法491条1項の規定によって先ず損害金から充当されると考えて良いでしょう。 以上:1,429文字
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