平成17年 1月21日(金):初稿 平成17年 1月24日(月):更新 |
ご質問 私は損害保険の代理店に勤めて間もない者ですが、逸失利益に関して不明な点がありいろいろ調べたのですが、どうしてもわからない点があり、お手紙させて頂きました。 無職者の逸失利益を計算する場合、平均賃金表を基にするというのは資料からわかったのですが、働く意志が証明できない人、ホームレスの人たちの場合、どう計算すれば良いのでしょうか?ゼロなのでしょうか。また、同じホームレスの人でも10年やっている人と数ヶ月の人とでは、同じ年齢・家族構成でも差が出るのでしょうか? 例えば A サラリーマン時代 辞める直前3年の平均年収 500万 40歳男性 大卒 家計の柱 配偶者あり 子供1人 ホームレス歴10年 B Aと同条件でホームレス歴2ヶ月 C Aと同条件でホームレスではないが10年働いていないし就職活動をやっていない いずれも働く意志がないとして逸失利益はいくらなのでしょうか。 保険会社の営業担当に聞いてみたのですが、はっきりとした答えはもらえず、インターネット、書籍で調べてもわかりませんでした。 いきなりお願いする非礼をお許しください。お手数ですが御回答いただけませんでしょうか。 小松弁護士解答 逸失利益賠償の基本的考え方は次の判例の通りです。 (原則) 稼働に係る逸失利益は、当該事故がなければ従前と同様に稼働することによって得られるであろう収入があるにもかかわらず、当該事故によって稼働することが一部又は全部困難となったため、得べかりし前記収入を失ったことを理由に認められるものであるから、原則として、稼働していない無職者については稼働に係る逸失利益を認めることはできないというべきであり、 (例外) ただし、その者が本件事故当時現実に就労していなかったとしても、将来において具体的に就業の機会を得て稼働収入を得られたであろうにもかかわらず、当該事故によってそれが実現しなかったと認定することができる場合には、その稼働収入をもって逸失利益を算定することは当然に許容されるべきである。 このように事故に遭わなければ得たであろう収入を賠償するのが逸失利益の考え方です。 従って、ホームレスで、働く意思が無く且つ収入全くなしとなれば事故に遭おうと遭うまいと収入がないのですから逸失利益を考える余地がありません。 しかし、いくらホームレスで働く意思がないとしても、生活している以上は、何らかの収入があるはずです。全く収入がなかったら、食べることが出来ず、生きていくことが出来ません。例えばゴミ箱を漁り、或いは物乞いをして収入を得ていたとしても、収入は収入です。生活している以上いくらかの収入があるはずで、収入全く無しとの事案は先ず考えられないと思います。 従って仮にホームレスの方が交通事故で後遺障害を受けたとして損害賠償請求を弁護士に依頼してくるケースでも弁護士としては、収入があることを主張し、且つその立証に努めます。ホームレスの方でも、弁護士に依頼すると言うことは、少しでも多くの損害賠償金を取ることを期待して依頼するからです。 ホームレスの方でも、たまたま職が見つからず現在はホームレスとなっているが働く意思は十分にあるとの主張すれば、平均賃金の収入を前提とした損害賠償額の主張も可能です。しかし、ホームレス歴が長くなるほど、働く意思及び職を得て収入を上げることが出来るとの立証は困難になるでしょう。 働く意思が全く認定されない場合でも、収入については少なくとも生活できる金額の収入があったとの主張をします。では生活できる収入とは月額いくらかとなると、正にケースバイケースになるでしょうが、多くても平均賃金の2分の1以下と思われます。 無職者に関する判例では、例えばアルコール中毒で生活保護を受けている方でも働く意思を認定された場合で平均賃金の2分の1を認定した例があるからです。 私はホームレスの方の実態はよく知りませんが、おそらくその事情,生活状態は、千差万別、多種多様であろうと思います。従って、生活状態、収入状態を良く確認の上、出来る限り多くの収入があるという主張を構成し、私が依頼された場合少なくとも国家による最低生活補償額と言われる生活保護基準額程度の収入はあったとして逸失利益を計算して請求することになると思います。 現実にどの程度の収入が認定されるかは、立証の問題であり、正にケースバイケースと思われます。 以上:1,796文字
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