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2023年02月01日発行第334号”娯楽小説の弁護士”

令和 5年 2月 2日(木):初稿
横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの令和5年2月1日発行第334号「”娯楽小説の弁護士」をお届けします。

○ノウハウもの読み物は相当読んでいますが、小説類は殆ど読まない私は、純文学と大衆小説の違いなんて考えたこともありませんでした。「純文学と大衆文学の定義や違いについて」には、大辞林第三版での「純文学は読者に媚びず純粋な芸術をめざした文学作品」との説明が記述されています。小説を殆ど読まない私でも丹念に読んだことがある夏目漱石「吾輩は猫である」は、純文学に分類されるそうです。しかし「猫」が純粋な芸術をめざした作品とは全く意識していませんでした。

○中学・高校生の頃、文学全集ブームがあり、色々な出版社が○○文学全集として数十冊の小説類を出版し、どこかの文学全集を全巻購入したことがありますが、うち1~2割位しか読みませんでした。その中で珍しく熱心に読んだのが三島由紀夫の巻で、特に繰り返し読んだのが「憂国」でしたが、目的は、男女の絡みのシーンで、当時は、相当かきたてられ、風俗小説的に読んだものでした(^^;)。

○大山先生が読んだ「春琴抄」は確か文学全集に入っており、中学生の頃読んだような気がしますが、中身は忘却の彼方で全く覚えていません。それ以下のドストエフスキー「永遠の夫」・ディケンズ「荒涼館」・モーリャック「蝮のからみ合い」なんて全くの初耳です(^^;)。流石、隠しきれない溢れる教養が自然とにじみ出る大山先生です(^^)。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

”娯楽小説の弁護士


「文学」と「娯楽小説」は、違うものだと言われています。しかし、具体的に何がどう違うのかは、よく分かりませんよね。以前読んだ本に、見分け方が書いてありました。「一途な男がカッコいいのが娯楽小説。変な人なのが文学」なんだそうです。ナンノコッチャと思ってしまいましたが、考えてみるとナンセンスとまでは言えない気がします。

「文学」で考えてみますと、谷崎潤一郎「春琴抄」の佐助は、間違いなく一途な男ですが、これまた間違いなく変な人です。ドストエフスキーの「永遠の夫」の主人公も、他者には冷酷なのに、浮気者の奥さんには一途の「変な人」でした。教養をひけらかすようで済みません。でも、隠そう隠そうとしても、溢れ出てきてしまうのです。ううう。。。

つまるところ、「文学」は現実にいる人間を描くので、一途な男は変な人になるのでしょう。娯楽小説は、「こんな人がいたら痛快だな!」という人を描くので、一途な人がカッコよくなるのだそうです。

と、長々と書いてきましたが、今回も取り上げたいのは弁護士の話です。私も気が付いてしまったのです。「娯楽小説に出てくる弁護士はカッコ良い人だが、文学に出て来る弁護士は変な人だ」ということに。最初に違和感を覚えたのは、まだ子供のころ、イギリスの大文豪、ディケンズを読んだときです。ディケンズの「二都物語」は、娯楽小説よりの作品です。舞台はフランス大革命。パリとロンドンの「二都」を結んだ物語です。ここに出て来る弁護士は、愛する女性のために、女性の恋人の身代わりになり、自ら断頭台に消えるカッコいい人です。(もっとも、それ自体「変な人」のような気もしますけど。)娯楽用の推理小説や冒険小説に出て来る「弁護士」は、間違いなくカッコいい人たちです。貧しい人や弱い人を助けて、凄い推理能力を発揮します。悪人を叩きのめす、肉体的な強さも持っています。娯楽小説の弁護士達は、私などからは仰ぎ見るような存在です。

しかし考えてみますと、ディケンズ大先生でも、「文学」臭が強い作品になると、「弁護士」を非常に変な人に描きます。自分の既得権益を「正義」の名の下に固守するような弁護士が、「荒涼館」始めディケンズの小説には沢山出て来ます。「人権」の名の下に、既得権益保護に汲々としている、現代の同業者たちを見ていると、多分これが「文学」で扱う現実の弁護士の姿なのだろうなと思ってしまいます。

弁護士に対して厳しい文学は、もちろんディケンズだけではありません。モーリヤックの「蝮のからみ合い」なんて、私の好きな小説です。今にも亡くなりそうな男と、その財産を狙う親族たち。その男は、これまで親族たちの犠牲の上に、好き勝手に生きてきた。それだけでは満足できずに、さらにその男は、財産をことさら残さないことで、親族たちを苦しめてやろうなんて考えています。この酷い男の職業ですが、別に何でも良いと思うんですが、モーリヤック大先生が選んだのは「弁護士」でした。

更に、有名な文学作品と言えば、イプセンの「人形の家」なんてあります。箱入り娘ということで、父親から夫に「譲渡」されたノラさんが主人公です。一見物分かりが良く優しい旦那さんですが、問題が起こると取り乱し、ノラさんを非難します。そんな中で、主人公のノラは、自分が父親と夫の「人形」だったと気が付き、家を出て行くという話です。これは、素晴らしい問題提起をした戯曲だと思いますし、私もファンです。で、でも、ノラさんの夫の職業は「弁護士」なんです。

モーリヤックやイプセンが、数ある職業の中から「弁護士」を選んだのは、決して偶然とは思えません。「文学者」として、現実の社会の多くの職業を見てきて。「こういうことを現実に行うのは、弁護士だな!」という判断のもとに選択したはずです。それが「文学」の「現実」であるのかもしれません。でも私は、たとえ夢物語でも、最後までカッコいい、「娯楽小説の弁護士」を目指したいのです!

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◇ 弁護士より一言

映画のヒロインは魅力的です。実はうちの妻、若い頃に「スターウォーズのレイヤ姫に、ふとした瞬間似てることがある」と言われたそうです。夫として 詳しく聞いちゃいました。

「だけど誰にも言わない方がいいよ」とも言われたそうです。び、微妙です。誰が言ったんや!でも、誰からもルークに似ていると言われたことのない私は、凄いことだと思ったのでした。
以上:2,560文字

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