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2015年12月01日発行第162号”タバコの害について”

平成27年12月 1日(火):初稿
横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの平成27年12月1日発行第162号「タバコの害について」をお届けします。

○「マンションベランダ喫煙に対し不法行為責任を認めた判例全文紹介1」で平成24年12月13日名古屋地方裁判所判決(ウエストロー・ジャパン、DB判例秘書)を紹介していました。大山先生にもこの記事を読んで頂き、ロシアの文豪アントン・チェーホフ作「タバコの害について」という一人芝居、更に信玄公旗掛松(はたかけまつ)事件まで言及されています。

○私は,アントン・チェーホフ「タバコの害について」なんて全く知らず,また、信玄公旗掛松(はたかけまつ)事件は、40年前の受験時代に少しは勉強したはずですが,全く思い至りませんでした。いつものことながら、大山先生と私の教養の差を痛感させられました(^^;)。

○信玄公旗掛松(はたかけまつ)事件、久しぶりに復習してみましたが,関係判決はなんと8件もありました。以下の通りです。
(1)甲府地判大正7(1918)・1・31 判例集未登載 中間判決。原告の請求原因を正当とする。
(2)東京控判大正7(1918)・6・4 判例集未登載 (1)の控訴審。 闕席判決により控訴棄却。甲府地裁に差戻し。
(3)東京控判大正7(1918)・7・26 新聞1461号18頁 (2)に対する故障申立て。(2)判決を維持。
(4)大判大正8(1919)・3・3 民録25輯356頁 上告棄却(この判決が、いわゆる「信玄公旗掛松事件」と呼ばれる判例である)。
(5)甲府地判大正10(1921)・2・15 判例集未登載 被告に金499円(うち50円は慰謝料)の支払いを命ずる。
(6)東京控判大正11(1922)・4・11 判例集未登載 (5)の控訴審。被告に金72円60銭(うち50円は慰謝料)の支払いを命ずる。
(7)東京控判大正13(1924)・12・25 判例集未登載 (6)に対する更正申立。賠償額・訴訟費用負担割合に関する更正申立を却下。
(8)甲府地決大正14(1925)・9・28 判例集未登載 訴訟費用額(241円71銭2厘5毛。原告が9割を負担)を決定。

(1)甲府地判大正7(1918)・1・31と(5)甲府地判大正10(1921)・2・15を後記します。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

タバコの害について


ロシアの文豪アントン・チェーホフに、「タバコの害について」という一人芝居があります。恐妻家の男が、妻に命じられて、タバコの害について講演をするという劇です。「実は妻が今日、煙草の害について講演しろと命令いたしますので、従ってそれ以上、とやかく争う余地はありません」

ところが、怖い妻が会場からいなくなると、タバコの話はそっちのけで、妻への悪口が始まります。

「妻はいつも機嫌の悪いとき、わたしのことを間抜野郎と呼ぶんです」「わたしは実に恐ろしいんです……妻がにらみつけると怖くてたまらない」「33年間、私をいじめ抜いた、あの低能で浅薄な、意地の悪い欲張り婆から逃げだすんです」なんてことばかり話します。その後、妻が講演会場に戻ってくると、「ただ今わたしの申し上げました通り、煙草は恐るべき毒素を含有しておりますので、その点から出発いたしまして、いかなる場合にも喫煙を許すわけにはゆかんという、結論に達するのであります」としめるという、バカバカしいお芝居です。「タバコの害」は、130年も昔のチェーホフの戯曲でも指摘されているんだなと、妙に感心してしまいます。それなのに、これまで日本の裁判で、ほとんど取り上げられませんでした。

先日NHKの「あさイチ」で、タバコの害について、取り上げられていました。マンションのベランダでタバコを吸う行為が、隣人との関係で問題になっているという話しです。今からおよそ3年前の裁判で、損害賠償を認められた事例があるそうです。

隣人がベランダで喫煙するのに悩んだ人が、150万円の損害賠償を求めて、裁判を起こしました。煙が隣の部屋の、タバコを吸いたくない人のところにも行くことから、ベランダでの喫煙行為は違法だと、裁判所も認定したのです。ところが、損害の金額ですが、150万円の請求に対して、裁判所が認めたのは5万円だけでした。たった30分の1です!「タバコの害」を認めるなら、「何でこんなに低い賠償金額なんだよ!」と、私にはとても不思議に思えます。いったいどこから、この5万円という金額が出てきたのかという疑問を考えていて、ハッと気が付いたのです!

実は、タバコではないのですが、煙の害について、とても有名な判例があります。信玄公旗掛松(はたかけまつ)事件という、今から100年前の判例です。

武田信玄が旗を掛けたという伝説のある松が、蒸気機関車の煤煙などで枯れてしまいました。そこで、松の所有者が、鉄道に対して、当時のお金で2000円を請求して、裁判を起こしたのです。これに対して裁判所は、最終的に損害賠償を認めたのですが、金額は70円強でした。つまり、この場合も、請求金額の30分の1程度しか、認められなかったのです。さらに言えば、その中で慰謝料にあたる部分を、現在の貨幣価値に換算すると、おおよそ5万円になるのです。

私の推理によりますと、3年前のタバコ判決の裁判官は、100年前の超有名判例を参考に、同じ「煙の害」だから、請求金額の30分の1で、5万円にしたに違い無いのです!(そんなわけあるかよ!!)

多くの弁護士達が、米国の民事裁判で、非常に高額な賠償が認められることを批判しています。私もそう思います。しかし、日本の裁判では、「煙」による損害について、現在も100年前と変わらず、請求金額の30分の1、金額だと5万円程度というわずかな金額しか認めていません。これは、米国とは逆の意味で、同じくらい大きな問題だと思えてしまうのです。

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◇ 弁護士より一言
中学校の寄宿生の次女は、いろいろと話題を提供してくれます。PTA役員をしている妻が、校内でたまたま会った担任の先生から言われました。「本当にユニークなお嬢様!!先日、遅刻したときに、『なんで遅刻したの?』って聞いたのです。そうしたら、『朝の連続テレビ小説からあさイチの最初も見てました!』って、答えましたのよ。」あ、アホか!
そういうときは、嘘でもいいから「朝から体調がすぐれないで。。。」と答えるもんだろう。(おいおい)



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(1)甲府地判大正7(1918)・1・31

主  文
原告ノ本訴請求ノ原因ハ正当ナリ。

事  実
 原告訴訟代理人ハ一定ノ申立トシテ、被告ハ原告ニ対シ金壱千五百円ヲ支払フベシ。訴訟費用ハ被告ノ負担トストノ判決ヲ求メ、請求原因トシテ原告所有ノ北巨摩郡日野春村字富岡第二十六番原野内ニ一千有余年ヲ経過セル老大松樹アリテ、尚今後幾百年ノ生ヲ保有スベキカ予メ測リ難キ生気ヲ有シタルモノナリ。元来此地ハ古来日野原ト称シ、北巨摩郡ノ中央高地ニ位シ、四方十数里ヲ展望シ得ベク、従テ往昔ヨリ甲斐ノ地ニ干戈ヲ動カス者ノ為メニハ実ニ枢要ノ地タリシナリ。

今之ヲ史蹟ニ微スタルニ建久年中逸見源太清光谷戸城ニ居ヲ占ムルヤ、右松樹上ニ物見櫓ヲ設ケタリシ以来、甲斐源氏武田家祖先ハ逸見武川ノ郷兵ヲ徴スルニ当リ必ズ此松樹ヲ目標トシ、此地ヲ集散所ト定メ、機山公信玄ニ至リテハ、其松樹上ニ旗ヲ掲ゲ以テ常ニ軍事及軍略上ノ指揮ヲ為シ来リタリ。

又治承年中武田太郎義信ハ、信州ノ地ニ出征若クハ凱旋ノ場合ニハ、又必ズ該樹上ニ旗ヲ掲ゲテ甲斐全国ニ知ラシムル第一目標ニ使用シタルガ如キハ、其著シキモノニ属シ、今尚甲斐ノ一本松若クハ旗掛松ト称シ口碑ニ嘖々タリ、

原告ハ此名木所在地ヲ所有シ、老松ヲ保護シ以テ永遠ニ之ガ生育維持ヲ図ルハ、一家ハ勿論寧ロ峡中ノ為メノ責務トシ、又栄誉トスル処ナリシナリ、然ルニ去ル明治三十五、六年頃中央鉄道ヲ敷設スルニ当リ、右松樹生立地ハ日野春停車場線路敷設ニ要用地タリシモ、政府ハ名木保存ノ趣意ヲ以テ松樹ヲ去ル約四間余ノ西ヘ屈曲セシメテ線路ヲ敷設スルニ至レリ。

而シテ尓後其既設線路ノ東方ヘ複線ヲ敷設スルニ当リ、右松樹ノ根株ヲ西ニ距ル一間未満ノ個所ニ複線ヲ敷設シタルヲ以テ、原告ハ松樹ノ保存到底覚束ナキヲ認メ相当買上ヲ為スカ、若クハ枯死ニ対スル相当設備ヲ要求シタルニ、被告ハ飽迄モ枯死ノ憂慮ナシト堅ク主張シ原告ノ要求ヲ排斥シタリ。

斯クテ日時ヲ経過スルニ従ヒ、汽車ノ煤烟ト震動ニ依リ直接ニ其生育ヲ妨ゲ漸次凋衰スルニ至リ、大正三年十二月ニハ全ク枯死スルニ至リタリ。右ハ複線路敷設ノ結果当然免ガル丶コト能ハザルベキコトハ予期シ得ベキニ拘ラズ、之ヲ予期セズシテ枯死セシムルニ至リタルハ、全ク被告ノ故意若クハ過失ニ基クモノナリル〔ママ〕ヲ以テ、原告ハ之ニ因リテ生ジタル損害ノ賠償ヲ求ムルモノナリト延ベ、立証トシテ甲第一号証ノ一、二及甲第二号証ヲ提出シ、検証及鑑定ヲ申立、乙第一号証乃至三号証ニ付キ不知ヲ以テ答ヘタリ。

被告ノ指定代表者ハ一定ノ申立トシテ原告ノ請求ハ之ヲ棄却ス。訴訟費用ハ原告ノ負担トストノ判決ヲ求メ、答弁トシテ原告主張ノ松樹枯死シタル事実及ビ明治三十五六年頃本件松樹ヲ距ル四間余ノ西ニ線路ヲ屈曲セシメテ敷設シ、其後又松樹ノ西側一間未満ノ個所ヘ複線路ヲ敷設シタル事実ハ之ヲ認ムルモ、線路ノ屈曲ハ松樹保存ノ為ニアラズ、又該松樹ガ原告主張ノ如キ歴史的関係ヲ有スルコト及ビ枯死ノ原因ガ鉄道ノ煤煙ニ因リタルモノトノ事実ハ之ヲ否認ス。

又右線路敷設ノ当時原告ヨリ松樹買上ノ交渉ヲ受ケタルコトアルモ、枯死ニ対スル相当設備ノ要求アリシコトナシ。更ニ所有権者ハ法律ノ保護スル範囲内ニ於テノミ其所有物ヲ使用収益処分スルコトヲ得。原告ガ此松樹ヲ枯死セシメザルガ為メニ、被告ニ本件ノ如キ請求ヲ為シ得ベキ権利ナシト抗弁ヲナシ、立証トシテ乙第一号証乃至三号証ヲ提出シ、甲第一号証ノ一、二ハ成立ノミヲ認メ甲第二号証ハ不知ヲ以テ答ヘ鑑定ノ申立ヲ為シタリ。

理  由
中央線鉄道日野春停車場ノ構内ニ明治四十四年回避線(原告ノ所謂複線)ノ敷設セラレタルコト、及ビ右回避線ニ沿フタル原告所有ノ北巨摩郡日野春村字富岡二十六番地原野内ニ生立セル老大松樹ガ右回避線ノ敷設後ニ於テ枯死シタルコトハ当事者間ニ争ナキ所ニシテ、原告訴訟代理人ハ枯死ノ原因ヲ一ニ回避線ノ敷設ニ帰スト雖モ、当裁判所ノ格証ノ結果及ビ鑑定人三浦伊八郎、土井藤平ノ鑑定ニ依ルトキハ、単ニ回避線ノ敷設ノ為メノミニアラズシテ、本線ニ於ケル汽車ノ通行モ亦多大ノ素因ヲ為セルモノト認ムベシ。

然レドモ其何レノ線路ニ於ケル汽車ノ運転タルトヲ問ハズ、其機関車ヨリ噴出セル煤煙ノ害毒ニ因リテ本件松樹ヲ枯死スルニ至ラシメタルモノナルコトハ、前示鑑定人ノ鑑定ニ依リ明白ナルヲ以テ、松樹ニ煤煙ヲ被ラシメタルコトニ付キ、被告国ノ使用者ニ故意又ハ過失アルニ於テハ、其使用人タル被告ニ於テ別ニ免責ノ事由ヲ主張セザル限リ、之ニ因リテ原告ニ被ラシメタル損害ヲ賠償スベキ責務アリト為サヾルベカラズ。

依テ之ヲ案ズルニ権利行為トシテ不法行為ノ責任ヲ除却スベキ場合ハ、権利特有ノ効力ニ基キ其内容ヲ超過セザル様更ニ限ルベク、苟モ其内容ヲ超逸スルコトアルニ於テハ其権利行為トシテ不法行為ノ責任ヲ免レザルモノトス。

本件ノ場合ニ於テ被告ガ鉄道線路上ニ汽車ヲ運転スルコトハ固ヨリ其権利ニシテ煤煙ノ発散亦必然ノ結果ナリト雖モ、之ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害スルコトハ法ノ認許セザル所ナレバ、松樹ヲ枯死セシメタルコトハ則チ権利ノ内容ヲ超逸シタル其権利行為ナリト為サヾルベカラズ。而シテ煤煙ガ樹木ヲ枯死セシムルコトハ予見シ得ベキモノナレバ、被告ガ本件松樹ノ近傍ニ於テ汽車ノ運転ヲ為スニ付テハ、該松樹ノ生存ヲ維持スベキ相当ノ施設ヲ為スコトヲ要スベキニ拘ラズ、何等防止ノ装置ヲ為サズシテ徒ラニ枯死ニ委シタルコトハ、当該職責アル被告ノ使用者ニ過失アルコト勿論ナルヲ以テ、被告ハ原告ニ対シ之レニ因リテ生ジタル損害ヲ賠償スベキ義務アルモノト認ム。

依テ原告ノ請求原因ヲ正当ナリトシ主文ノ如ク判決シタリ。

甲府地方裁判所民事部
裁判長判事 東亀五郎 判事 大庭良平・高橋方雄

(5)甲府地判大正10(1921)・2・15

右当事者間ノ大正六年(ワ)第一号損害賠償請求事件ニ付、請求原因正当ナリトノ中間判決確定シタルヲ以テ更ニ数額ニ付当裁判所ハ判決スル事如左
主  文
被告ハ原告ニ対シ金四百九十九円ヲ支払フベシ。
原告其余ノ請求ハ之ヲ棄却ス。
当審ノ訴訟費用ハ之ヲ十分シ其一ヲ原告其九ヲ被告ノ負担トス。

以上:5,292文字

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