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2010/12/16 第43号 弁護士の都鄙問答

平成24年 2月29日(水):初稿
横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

 本年もいよいよ最後のニュースレターになりました。

 そこで今回は、今後の弁護士のあり方について、私の考えを書いておきます。

 都鄙問答(とひもんどう)というのは、江戸時代の大思想家、石田梅岩の代表作です。「都」の思想家である梅岩が、「鄙(いなか)」の頑迷固陋な人たちの考えを論破していくという内容ですね。経営者の聖典として、長いこと商人たちに読まれてきました。

 田舎の人たちが信奉していた思想というのは、つまるところ、当時の支配階級である武士に都合のよい思想だったわけです。武士は「義」のために存在していると持ち上げる一方で、商人は「利」のことしか考えないと貶めます。

 こういった、「武士だけが偉いんだ!」という思想に異議を唱えたのが石田梅岩です。梅岩は、商人の活動が、社会のためにどれほど役立っているのかを根拠づけたんですね。

 商人が売買で利益を得るのは、武士が俸給を得るのと同じで、なんら恥ずべきことではないと主張したわけです。商人が、自由な競争の中、物やサービスを提供することで、売手も買手も社会も利益を得るのだと教えました。

 武士の支配する時代が終わって、既に百数十年たっています。石田梅岩の思想は、多くの人たちには当たり前のこととして受け取られてきました。しかし、未だに商人蔑視の思想を持った人たちがいるのです!!弁護士や税理士といった、最後に「士」が付く職業は、サムライ業と呼ばれているんですね。特に弁護士について言えば、江戸時代のサムライ達と、非常に似ていると気が付きました。

 江戸時代のサムライは、雇い主から俸給を貰って生活していたわけです。弁護士の場合、少し前までは弁護士需要に比べて、国家が供給を制限していました。従いまして、開業すればある程度の仕事が来て、生活できるのがあたりまえでした。お上が、弁護士の数を制限していたからこういうことが出来たわけですから、まさに俸給を貰うのに匹敵しますね。

 俸給を貰って生活する中で、競争して利益を得るのは悪いことだという考えが、弁護士の中では息づいています。自分たちは商人のような悪どい金儲け!をするのではなく、世のため人権のために働いているという、「サムライの論理」です。

 最近はご承知のように、弁護士の数がかなり増えてきました。そうした中で、少し前まではあたかも「俸給」のように貰えていた報酬も、貰えなくなってきたわけです。これからは、普通の商人と同じように、自由に競争して、稼がなくてはいけないのです。

 こういう事態に直面し、多くの弁護士の、「商人蔑視」思想が噴出しています。「おれたちサムライに、私利私欲しか考えない商人と同じことをさせる気か!」というわけです。

 私は、これからの弁護士は、良き「商人」になるべきだと考えています。

 そして、「商人というのは、私利私欲のかたまりではない。自由競争のもと、お客様に喜んで頂ける物やサービスを提供する、立派な生業なのだ!」という「企業の常識」を、少しでも多くの弁護士が理解すれば良いなと思っているのです。

 (2010年12月16日第43号)
以上:1,261文字

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