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譲渡禁止特約付債権の債権譲渡に関する平成21年3月27日最高裁判決紹介

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平成30年 1月30日(火):初稿
○債権譲渡は、民法第466条で「債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。」と規定し、原則自由ですが、当事者の意思表示で、譲渡を禁止することができるとされています。

○当事者の意思表示で譲渡を禁止した債権は、譲渡禁止特約付債権と呼ばれますが、この譲渡禁止特約付債権を債権譲渡した場合の債権譲渡の効力について、一見、異なる見解とも思える2つの最高裁判決を紹介します。先ず平成21年3月27日最高裁判決(判タ1295号172頁、判時2042号3頁)です。事案は、YがにXに譲渡した請負代金債権について、債務者Aが債権者不確知を理由として供託したところ、譲渡したYが、上記請負代金には譲渡禁止特約が付されており債権譲渡は無効であるとして、Yがこの供託金の還付請求権を有することの確認を求め、Xが、上記債権譲渡が有効であるとして、Xがこの供託金の還付請求権を有することの確認を求めたものです。

○最高裁判決は、譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者Yは、同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであって、債務者Aに譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り、その無効を主張することは許されないとしました。

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主   文
1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
2 被上告人の上告人に対する本訴請求を棄却する。
3 上告人と被上告人との間において,上告人が第1審判決別紙供託金目録記載1ないし3の供託金の還付請求権を有することを確認する。
4 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理   由
上告代理人辻井一成の上告受理申立て理由第2の1について

1 被上告人が上告人に譲渡した請負代金債権について,債務者が債権者不確知を供託原因として供託をした。本件本訴は,被上告人が,上記請負代金債権には譲渡禁止特約が付されていたから,上記債権譲渡は無効であると主張して,上告人に対し,被上告人が上記供託金の還付請求権を有することの確認を求めるものであり,本件反訴は,上告人が,被上告人に対し,上記債権譲渡が有効であるとして,上告人が上記供託金の還付請求権を有することの確認を求めるものである。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,平成17年3月25日に特別清算開始決定を受け,同手続を遂行中の株式会社である。
 上告人は,会員に対する貸付け,会員のためにする手形割引等を目的とする法人である。

(2)被上告人と上告人は,平成14年12月2日,被上告人が上告人に対して次のア記載の債権の根担保としてイ記載の債権を譲渡する旨の債権譲渡担保契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
ア 被上告人と上告人との間の手形貸付取引に基づき,上告人が被上告人に対して現在及び将来有する貸付金債権及びこれに附帯する一切の債権
イ 被上告人がA(以下「A」という。)に対して取得する次の債権のすべて
(ア)種類工事代金債権
(イ)始期平成14年6月2日
(ウ)終期平成18年12月2日
(エ)譲渡債権額1億5968万円

(3)被上告人は,Aに対し,上記(2)イ記載の債権に含まれる第1審判決別紙債権目録記載1ないし3の工事代金債権(以下,「1の債権」,「2の債権」などといい,これらを併せて「本件債権」という。)を取得した。

(4)本件債権には,被上告人とAとの間の工事発注基本契約書及び工事発注基本契約約款によって,譲渡禁止の特約が付されていた。

(5)Aは,平成16年12月6日に1の債権について,平成17年2月8日に2の債権について,同年12月27日に3の債権について,それぞれ債権者不確知を供託原因として第1審判決別紙供託金目録記載1ないし3の各供託金額欄記載の金員を供託した。

3 原審は,次のとおり判断して,被上告人の本訴請求を認容し,上告人の反訴請求を棄却すべきものとした。
 債権の譲渡禁止特約に反してされた債権譲渡は無効である。本件債権には譲渡禁止特約が付されており,その譲渡についてAの承諾があったと認めることはできないので,本件契約に基づく本件債権の譲渡(以下「本件債権譲渡」という。)は無効である。上告人は,本件債権譲渡の無効を主張できるのは債務者であるAだけであると主張するが,そのように解することはできない。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)民法は,原則として債権の譲渡性を認め(466条1項),当事者が反対の意思を表示した場合にはこれを認めない旨定めている(同条2項本文)ところ,債権の譲渡性を否定する意思を表示した譲渡禁止の特約は,債務者の利益を保護するために付されるものと解される。そうすると,譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであって,債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り,その無効を主張することは許されないと解するのが相当である。

(2)これを本件についてみると,前記事実関係によれば,被上告人は,自ら譲渡禁止の特約に反して本件債権を譲渡した債権者であり,債務者であるAは,本件債権譲渡の無効を主張することなく債権者不確知を理由として本件債権の債権額に相当する金員を供託しているというのである。そうすると,被上告人には譲渡禁止の特約の存在を理由とする本件債権譲渡の無効を主張する独自の利益はなく、前記特段の事情の存在もうかがわれないから,被上告人が上記無効を主張することは許されないものというべきである。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。これと同旨をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の本訴請求は理由がなく,上告人の反訴請求は理由があるというべきであるから,第1審判決を取消した上,本訴請求を棄却し,反訴請求を認容することとする。 
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今井功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫)



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