平成22年 2月11日(木):初稿 |
○夫婦が離婚に至る場合、離婚条件として夫A所有の不動産の所有権を妻Bに譲渡する場合がよくあります。典型例は、夫A名義不動産について財産分与を原因として譲渡する場合です。財産分与の本質は、夫婦共同財産の清算であり、現金分配が原則で、現金で分配した場合は、税金はかかりません。ところが、現金ではなく不動産そのもので譲渡した場合、原則として譲渡所得税がかかります。夫Aが妻Bに慰謝料支払義務があることを認め、これを現金で支払った場合は税金はかかりませんが、不動産で代物弁済した場合も、譲渡所得税がかかります。以下参考判例です。 昭和45年4月11日名古屋地裁(民集29巻5号649頁) ・本件資産の譲渡が離婚に伴う慰籍料支払のためではなく財産分与である旨の主張を排斥して、調停調書上明白に慰籍料として記載せられた以上は慰籍料であるとした。 ・慰籍料支払のための資産の譲渡は、所得税法第33条第1項の譲渡所得にあたる。 所得税法第33条(譲渡所得)第1項 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。 昭和50年5月27日最高裁(判タ324号202頁、判時780号37頁) 財産分与に関し右当事者の協議等が行われてその内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。したがつて、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによつて、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきであり、財産分与としての資産の譲渡は、所得税法第33条第1項の譲渡所得にあたる。 ※従来からの財産分与としての資産の譲渡に所得税を課税してきた(昭和45・7・1直審(所)30所得税基本通達3816参照)税務当局の扱いについて最高裁としてお墨付きを与えたもの。 平成元年9月14日最高裁(判タ718号75頁、判時1336号93頁) 協議離婚に伴い夫が自己の不動産全部を妻に譲渡する旨の財産分与契約をし、後日夫に2億円余の譲渡所得税が課されることが判明した場合において、右契約の当時、妻のみに課税されるものと誤解した夫が心配してこれを気遣う発言をし、妻も自己に課税されるものと理解していたなど判示の事実関係の下においては、他に特段の事情がない限り、夫の右課税負担の錯誤に係る動機は、妻に黙示的に表示されて意思表示の内容をなしたものというべきである。本件については、要素の錯誤の成否、上告人の重大な過失の有無について更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻す。 上記差戻審平成3年3月14日東京高裁(判時1387号62頁) 協議離婚に伴う財産分与契約で分与者側が約2億円に上る所得税が課されることはないと信じたことに要素の錯誤がありまた重過失はなかったとして分与契約を無効とする。 ※これは大変有名な判例ですが、当時は、財産分与、慰謝料の支払のために不動産を譲渡した場合に譲渡所得税が課されることが常識化していなかったので、要素の錯誤が認められました。これが常識化した現時点では、錯誤の主張は通用しないでしょう。 以上:1,388文字
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